これが本当に数学? ~四色定理を通して~

みなさんこんにちは!

自然科学研究科M2のS.Kです.

 

この記事に興味を持ってくださりありがとうございます!

 

みなさんは「数学」と聞いてどのような印象を抱くでしょうか?

数式,計算,簡単,難しい,得意,苦手,… など様々な思いがあるでしょう.

 

この記事では,あまり知られていない数学の世界の一部をお見せできればと思います.

そしてみなさんの数学に対する印象に少しでも良い影響を与えられたら嬉しいなと思います.

 

早速ですが次のような問題をどこかで耳にしたことはないでしょうか.

 

問題

隣り合う国を別の色で塗るというルールのもとで,平面上の地図は何色あれば塗分け可能か?

 

答えはなんと4色

4色あればどんな地図でも塗分けることが可能です.

 

これは私が専門とする位相幾何学的グラフ理論における有名な問題で,
一般には「四色問題」「四色定理」として広く知られています.

 

この問題は1852年にガスリーという人物がロンドン大学に通う彼の弟に質問したことをきっかけに,その指導教員であったド・モルガン(どこかでこの名前を聞いたことがありませんか?)がこの問題を知りその歴史がスタートしました.

この記事では「四色問題」を題材に,数学の分野の一つである「グラフ理論」を紹介します.

 

では早速この問題と数学を結び付けていきましょう.

 

まず,地図に描かれた各国に点を配置します.

次に隣り合う国の上に配置された点と点を線で結びます.
ここでは1点でのみ接している国々は隣り合う国とはみなしません.

こうすることで地図の上に図形が浮かび上がりました.

このような,点とそれらを結ぶ線のみからなる図形を “グラフ” と呼びます.

 

そして「隣り合う国を別の色になるように平面上の地図を塗分ける」という問題は,「線で結ばれた点が別の色になるように図形(グラフ)の点を塗分ける」という問題に置き換えることができます.
この事実を理解することは難しくないでしょう.

以降は「地図の塗分け問題」を「グラフの点の塗分け問題」として考えていきます.
また,グラフの点のことを「頂点」,点を結ぶ線を「辺」と呼ぶことにします.

 

この問題は1879年にケンペという人物が解決しました!

(なんとケンペの職業は弁護士)

…と思われていたのはその11年後の1890年までです.

ヒーウッドという人物がケンペの証明の誤りを訂正し,「五色定理」を発表しました.

つまり「どんなグラフでも,5色あれば辺で結ばれた頂点が異なる色になるように塗分けが可能である」ということを証明しました.

 

ここで数学において重要な考え方を一つお話します.

それは「定理の強弱関係」です.

さて,「五色定理」と「四色定理」はどちらが強い定理でしょうか.


そもそも “強い” とは何だろう?という疑問が生まれるのは自然なことです.
「五色定理」と「四色定理」を例にとって,”強い” のイメージを掴んでもらいましょう.

 

どんなグラフであっても,4色で頂点の塗分けが可能ならば,5色で頂点を塗分けることが可能でしょうか?

 

答えは可能です.4色あれば辺で結ばれた頂点が異なる色になるように塗分けが可能なので,今まで一度も使っていない色を加えた5色あれば余裕を持って塗分けが可能でしょう.

 

では逆に,

どんなグラフであっても,5色で頂点の塗分けが可能ならば,4色で頂点を塗分けることが可能でしょうか?

 

答えはわかりません.使う色を1色減らせば良いのですが,色を減らしてもグラフの頂点の塗分けが可能かは判断がつきません.

もちろん5色で頂点の塗分けが可能なグラフの中で,4色でも塗分けが可能なグラフの具体例を挙げることは簡単です.

しかし今知りたいことは,「どんなグラフであっても,5色で頂点の塗分けが可能ならば4色で頂点の塗分けができるかどうか」です.
具体例を挙げていくだけでは,無数にあるすべてのグラフが,5色で頂点の塗分けが可能ならば4色で頂点の塗分けができるかどうかの判断はつきません.


余談ですが,上記のように具体例を考えることは数学を理解する上で非常に重要です.
しかし数学の目標は,より「一般的」に,より「抽象的」に理論を展開することです.

この「一般的」で「抽象的」であることが自然科学全般,そして世の中を支える数学という学問の”難しさ”であり,同時に”魅力”でもあります.

まとめると,「5色で頂点の塗分けが可能なグラフで,4色でも頂点を塗分けることが可能」であるグラフの具体例を考えることは簡単ですが,
どんなグラフであっても5色で頂点の塗分けが可能ならば4色で頂点の塗分けができる」かどうかは分からない,ということです.

やはり答えはわからないというのが正解になります.

 

ここまでの話を踏まえてもう一度考えてみましょう.
「五色定理」と「四色定理」はどちらが ”強い” 定理でしょうか.

 

 

正解は「四色定理」です.

上で考えたように,「四色定理」が成り立っているならば「五色定理」は必ず成り立ちます.

しかしながら,「五色定理」が成り立つからといって「四色定理」が成り立つとは限りません.

これが「定理の強弱関係」です.

 

つまりヒーウッドという人物はケンペの「四色定理」の証明の誤りを訂正し,「四色定理」よりも少し ”弱い”「五色定理」ならば成り立つ,ということを示したのです.

 

ケンペが考えた証明もすべてが間違っていたというわけではなく,「五色定理」の証明にはケンペが「四色定理」の誤った証明の中で用いたアイデアが使われています.
さらにこのケンペのアイデアは現在でもこの分野の研究に生かされています.

 

たとえ目には見えなくても,間違えたとしても,考えることには意味があるのだと感じさせられます.

 

そして1976年の夏,100年以上に渡り続いた「四色定理」と数学者たちの戦いは衝撃の結末を迎えます.

 

解決したのはアメリカの2人の数学者であるアッペルハーケンです.

衝撃的なのはその証明方法.

なんと彼らはコンピューターを利用して「四色定理」を証明しました.

 

コンピューターを使って数学の定理を証明する…?

このような疑問を抱くのは当然のことです.

もちろんこの結末は数学者たちにとっても受け入れられるものではありませんでした.

しかしながら数学的に正しい証明である以上は認めざるを得ません.

 

そして未だコンピューターを利用せずに「四色定理」を証明する方法は見つかっていません.

 

先ほどの「定理の強弱関係」の話を思い出すと,「四色定理」は証明にコンピューターを利用する必要があり,人間の力だけで証明することは現状ではできません.
しかし少し”弱い”「五色定理」ならば人間の力だけで証明することができる,ということになります.

 

以上が100年以上に渡り続いた「四色定理」と数学者たちの戦いの歴史になります.

 

「隣り合う国を別の色で塗るというルールのもとで,平面上の地図は何色あれば塗分け可能か?」

 

こんな誰にでも理解できる単純な問題が多くの人々を悩ませ,惹きつけてきたのです.

 

いかがだったでしょうか?

 

地図の塗分け問題が図形の頂点の塗分け問題に置き換わったり,数学の定理には強弱関係があったり,間違った証明から素晴らしいアイデアが生まれたり,コンピューターを利用した数学の証明があったりと,この記事では様々なことが起こりましたね.

 

この記事を読む前と比べて,みなさんの数学に対する印象に変化はあったでしょうか?

 

私は ”数学” = ”計算,数式” と決めつけてしまっては少しもったいないように思います.

「こんな数学もあるよ」ということが少しでも分かってもらえていたら嬉しいです.

 

今すぐにこの記事の内容のすべてを理解できなくても心配は必要ありません!

時間をかけてじっくり考えることが,学ぶことの醍醐味だと思います.

 

数学に限らない話ですが,大学生活を通して,時間をかけてじっくり考えたいと思える程に興味を持てる分野がみなさんにもきっと見つかると思いますよ!

 

 

もし「四色定理」についてもっと知りたいという方がいたら,附属図書館にも所蔵されている次の図書をチェックしてみてください!

 

「四色問題」 ロビン・ウィルソン [著]  茂木健一郎[訳]  東京 : 新潮社, 2004.11

【中央館3F : 図書,415.7 // W75】

 

OPACリンク:

opac.lib.niigata-u.ac.jp

 

この記事の内容は以上になります.

最後まで読んでいただきありがとうございました.

 

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