フィールドワークのススメ(事前準備編その2)

こんにちは、現社研D2のY.Kです。

今回は事前準備編その2として、前回立てた問いをもとに、調査方法の選び方など、実際に調査を行う前の準備について紹介していきます。

※筆者は人文地理学出身です。内容が人文社会系に偏るとは思いますがご了承ください。

前回の記事はこちらからご覧ください。

フィールドワークのススメ(事前準備編その1) - 図書館学習サポーターの学修サポートコンテンツ!

 

 

調査方法の選定

問いとテーマが決まると、いよいよどのような調査をしていくかを考えることになります。

まずは立てた問いに答えるために、どのような情報、データが必要かを考えましょう。

 

歴史を知りたい場合は、どのような史料が必要か、どういった施設を訪れたらよいかを考える必要があります。

現在の状況を知りたい場合は、どういった資料が必要か、誰に話を聞けばいいのかを考えましょう。

また調査する内容は、必要な情報またはデータは、実際に現地に行かなければ知ることができないものもあれば、現地に行かなくてもすぐに調べることができるものもあります。

 

1. 事前調査

統計資料や聞き取り調査をする相手情報など、実際にフィールドに足を運ばなくても調べられる情報は、行く前に収集することをオススメします。事前に情報を集めることができれば、現地での調査や資料収集をスムーズにすることができます。

 

【統計資料】

統計局のHPなどで、多くのデータが公開されています。

市区町村、あるいは大字(おおあざ)の人口構成、就業者数、勤務先、主要産業、生産物などは調べることができるでしょう。

www.e-stat.go.jp

都道府県や市区町村が独自に統計データを公開していることがありますので、各自治体のHPも参考にしてみましょう。

 

また、近くの図書館に所蔵されているのであれば、「〇〇県史」や「〇〇市史」、「〇〇村誌」といった、その地域の概要をまとめた地方史を読むこともオススメします。

多少古いものであっても、その地域の歴史を理解することができます。

 

【インタビュー対象の情報】

実際に誰かにインタビューなどをする予定がある場合は、新聞記事やHPを用いてその相手について事前に調べておきましょう。

たとえば企業や団体の場合は、従業員数や店舗数、創業年などの沿革はHPで調べることができます。

あるいは新聞記事を調べることで、その企業や団体がどういった事業や活動を展開してきたのかを調べることができるでしょう。

 

こういった事前の準備をすることで、調べればわかることについては当日は確認するだけにすることができるため、当日のインタビューが円滑になる、一番聞きたいこと、本人に聞かなければわからないことを聞く時間を増やすことができるといった、実際にフィールドでの調査をより意義のあるものにすることができます。

 

2. 本調査

本調査では、

  • 現地に行かないと読むことができない文献や統計資料
  • 直接当事者に聞かなければわからないこと

といった、事前の調査で得られなかったデータを集めましょう。

 

【文献・統計資料】

現地でしか読めない文献や統計資料を閲覧することは、聞き取りや参与観察で得られた情報を確かめたり,裏づけたりするためにも重要です。

どのような資料を現地で閲覧できるのかは事前に調べましょう。

たとえば県立図書館や市立図書館のHPにある図書検索のツールはどこからでもアクセスできる場合が多いです。

検索が難しい(どのようなキーワードを検索すればいいかわからない、検索して出てきた資料が役に立つかがわからない)場合は、各図書館のレファレンスサービスを活用しましょう。

ほとんどの図書館には、レファレンスサービスと呼ばれる、図書館の職員の方々が調べたいことについてサポートするサービスがあります。

www.pref-lib.niigata.niigata.jp

調べたい情報について、図書館にある文献を一通り調べてくれたり、詳しく調べることができる公的機関(市役所,博物館など)を紹介してもらえたりと、調査ではとても便利なサービスです。

文献・資料を探すのに手詰まりを感じたら、現地の図書館に電話やメールで相談することをオススメします。

(図書館によっては相談用のフォームがHPに用意されていることがあります。)

 

【聞き取り調査】

どうしても文献や資料ではわからない、当事者自身の気持ちやエピソードが重要であるといった場合は、その人に実際にインタビューをしましょう。

 

インタビューにも様々な方法がありますが、大きく3つのタイプがあります。

①非構造的でインフォーマルなインタビュー(非構造化インタビュー)

自由な聞き取りを行うインタビューです。ほぼ会話に近いかたちで進めていきましょう。

インタビューの対象者の側に立った深い話を聞くことができますが、こちらが聞きたい内容から大きく脱線するというデメリットもあります。

また長時間お話を聞ける状況であれば問題ありませんが、1時間以下などといった短時間しか会うことができない場合は、聞きたい情報を聞くことができなくなるといったこともありうるでしょう。

 

②構造化されたインタビュー(構造化インタビュー)

事前に用意した質問用紙にしたがって質問をして、回答を調査者が書き取る形で進めるインタビューです。

質問用紙は、質問の聞き方や言い回しもあらかじめ決めて用意します。

すべての回答者に答えてもらいたい特定の情報について取りこぼさずに聞き取ることができます。

一方で非構造化インタビューに比べて、インタビューの対象者の立場や気持ちを汲み取ることは難しいというデメリットがあります。

 

③半構造化されたインタビュー

質問内容は決めておきますが、質問する順番や質問の仕方(言い回しなど)は調査の対象者や状況に合わせて柔軟にインタビューを進めていきます。

聞きたいことを聞きながらも、インタビューの対象者の事情や気持ちに合わせた深い話を聞き取ることができます

①と②のいいとこどりといえますが、タイミングを図りながら質問項目の内容を織り交ぜ、スムーズに対象者との会話を進めていくことになるので、質問者の側にある程度の熟練が必要となります。

 

こうしたインタビューを進めていく上で,①~③のどちらでも必要なことは、相手の事情に合わせることと、事前に調べられることは全て調べておくことです。

 

インタビューをするということは、その対象者の貴重な時間をもらうということでもあります。さらに現地での調査では、インタビューをする場所も提供してもらう場合があるでしょう。

もしインタビューに協力してもらえるということになったら、都合の良い日時と場所を教えてもらい相手の事情を最大限尊重したスケジュールを設定しましょう。(アポイントメントについては、次の「調査時のスケジュールの確認」で説明します。)

 

繰り返しにはなりますが、HPや新聞記事を調べればわかるようなことは、事前に調べておくとスムーズにインタビューできます。こうした事前の情報収集は,対象者の方から「よく調べているな」と印象が良くなるとともに、より深い話を聞くきっかけにもなるでしょう。

上述した通り、調査対象者の貴重な時間をもらってインタビューをするので、インタビューでしか聞くことのできないことを質問するようにしましょう。

 

また、調査に協力してくれる人が知り得ないような情報を事前調査で入手できた場合は、当日見せたり渡せたりできるように用意しておくと、情報交換ができるかもしれません。

 

【参与観察】

調査者自らが調査したい活動に参加したり、メンバーの一員となったりすることで、情報を収集するという調査方法もよく用いられます。

完全なメンバーの一員となって活動しながら観察する方法もありますが、グループの一員にならず、第三者として観察する方法も参与観察の手法の一つです。

事前の資料収集や、聞き取りだけでは気づくことができない情報や疑問点を見つけることができるでしょう。

私は、こうした調査したいことに関わるイベントやグループの活動を第三者として観察をしたうえで、インタビューしたい対象の情報を集め、質問したい内容を考えるという流れで調査を進めていくことが多いです。

 

調査時のスケジュールの確認

ここまでで、事前に調べることと、どのように調査をしていくかを選定していきました。

では、実際にフィールドワークをする際のスケジュールを立てていきましょう。

 

【インタビューや参与観察のためのアポイントメント】

聞き取り調査や参与観察が可能な場合は、できるだけ早くアポイントメントを取りましょう。

大まかには以下の順序でアポイントメントを取っていきます。

1. 調査先の連絡先(メールアドレス、住所、電話番号など)の確認

連絡先は公開されているHPや、(閲覧が可能であれば)タウンページなどの公式な方法で確認しましょう。

また調査先のFacebookなどのSNSで、連絡先をプロフィールで公開している場合もあります。

公共機関(市役所)であれば、聞きたいことに関して詳しい担当の部署を確認することも重要です。

 

2. 調査協力のお願いのメッセージ(手紙、メールなど)の送付

手紙やメールなどで調査の協力をお願いします。

調査の目的なぜその相手に調査をする必要があるのか調査(聞き取り、集めたい資料)の内容希望する調査の日程などを過不足なく伝えることが必要です。

手紙やメールには一定のマナーもありますので、調査対象の方々に失礼のない文章を作る必要があります。

さらに、メッセージを送付した後に具体的な日程などを調整する必要があるので、後日改めて連絡する方法(電話)と日時などを文面に加えましょう。スムーズに調整できるようになります。

 

3. 協力の可否と調査日程、場所の確認

後日連絡した際は、まずは調査に協力してもらえるかどうかを確認しましょう。

調査対象先の日程の都合が合わない、あるいは他の理由で協力そのものができないといった場合は少なくありません。

(協力してもらえなくても、落ち込む必要はありません。)

協力してもらえることになったら、どのくらいの時間インタビューしたいかを伝えて、実際にいつ、どこで調査を行うのかを詰めていきましょう。

 

【スケジュールの確認】

課外学習の一環として行く場合、現地には2~3日しか滞在できないと考えられます。そのため、1日ごとに何ができるかを確認することが必要です。

到着予定の駅や宿泊先のホテルなどから調査する予定の場所への道程(電車やバスの時刻表など)は事前に確認しましょう。

(目的地が都市部でない場合、アクセス方法が限られる場合があります)

インタビューや参与観察の予定があれば、まずはその予定を優先します。

人と会う予定のある調査以外の時間は、現地の図書館など、調査するテーマに関わる資料が閲覧できる施設を訪れるとよいでしょう。

こうした施設への訪問は、滞在期間と休館日が重なる可能性があります。市役所等の場合は土日に閉庁することが多いです。HPなどで十分に開庁スケジュールを確認しましょう。

 

おわりに

ここまで、実際にフィールドワークを行うための準備について解説しました。

現地での活動と同じくらい、あるいはそれ以上に事前の準備は重要です。

準備を十分に行うことで、現地に滞在する間に満足できるデータを集めることのできる有意義なフィールドワークをすることができます。

 

【参考文献】

谷 富夫・山本 努 編著 2010. 『やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる質的社会調査ープロセス編』 ミネルヴァ書房.

谷 富夫・芦田哲郎 編著 2010. 『やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる質的社会調査ー技法編』 ミネルヴァ書房.

opac.lib.niigata-u.ac.jp

 

 

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